《水都大阪 水辺散策手帖》はじめに「水の都の水辺めぐり」
はじめに「水の都の水辺めぐり」
大阪は、江戸時代の初めから「水の都」として発展してきました。市中には、淀川の支流にあたる大川・堂島川・土佐堀川・安治川などの河川だけではなく、東横堀川・西横堀川や道頓堀川・長堀川など十数本の堀川が開削され、水運に供されました。また大阪湾に開かれた港は、海運ルートの拠点として多数の菱垣廻船や樽廻船が出入港し、「出船千艘、入船千艘」と呼ばれる盛況を博したのです。
このように、大阪港の海運と、市中を縦横に走る堀川による水運は、膨大な人の移動、物資の輸送を担い、その水上交通によって大阪の経済は支えられ、人々の生活を豊かにしてきました。また、「八百八橋」と称されたように、数多くの橋が架けられましたが、地域によっては内航船の航行を妨げないために、架橋の代わりに渡船場が設けられました。その渡し船は移動の手段としてだけではなく、花見などの行楽のツールにもなっていました。「水の都」と呼ばれた由縁です。
近代以降になると、鉄道・自動車の発達や戦後の経済復興の過程で、いくつもの堀川が埋め立てられました。それでも現代の大阪は、土佐堀川・東横堀・道頓堀川・木津川が市内を四角く取り囲み「水の回廊」と呼ばれており、また８カ所の渡船場も稼働しています。往時の風情は、まだまだたっぷりと残っているのです。水辺散策をしながら、「水の都」の歴史や、人々の生活に根付いていた「水辺の暮らし」の一端をお楽しみください。
『浪花桜宮之図』歌川貞芳、江戸後期(国立国会図書館デジタルコレクション）
《コラム》 大阪市の市章「澪標（みおつくし）」
大阪市の市章は「澪標」です。「澪標」とは、澪(みお＝航路)を誘導するために河口の浅瀬に立てられた標識のことをいい、澪に刺す串が語源と言われています。多くの船の入港を導いた「澪標」は「水の都」を象徴する標識として、明治27年(1894)に市章のデザインに採用されました。
『浪花百景 天保山』南粋亭芳雪、江戸後期（大阪市立図書館デジタルアーカイブ）
大阪市章
《コラム》 「水の都」の小説
高安月郊『水の都』(『畿内見物 大阪の巻』1912年、 金尾文淵堂)
高安月郊(1869～1944)は、明治・大正・昭和に活躍した劇作家・詩人ですが、明治末年における大阪の河川・堀川が人々の生活に溶け込んでいた様子を活写した小説『水の都』を残しました。その一部を引用しておきましょう。
大阪は水の都である。町幅が狭いだけ川が大道である。淀川は大通である、横堀は小路である。町を通るより、川を通る方が大阪の特色が味はれる。夏は殊に夕日が暖簾に消える頃、手近の堀へ下りて小舟に乗ると、風はまだ両側の軒の釣葱にも動かず、竹簾を洩れる燈火、縁側の岐阜提灯の影が緩い流に流れぬ上を流れて小橋の数をかぞへながら、やうやう大川へ出ると、風は俄に舟の灯を煽ぐ。
当時の大阪の主要な交通は水運でした。河川を大路で、堀川を小路になぞらえるのは、人々の実感だったのでしょう。
（髙島）
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